昨今、目にすることの増えた「中高一貫校」。入学には受験を伴うため、小学校低学年から準備している家庭もあります。小さい頃から受験勉強する是非が問われる一方で、受験者数、入学者数は年々増加しています。その背景には何があるのでしょうか。今回は中高一貫校の魅力を2つのポイントに絞って解説します。
【中高一貫校の魅力①】 6年間、好きなことに没頭できる
①(1) 激動の思春期真っ最中に受験をしなくていい
多くの保護者が魅力的と考えるのが、「6年間好きなことに没頭できる」点です。
中学校に入学する年齢は12歳。中高一貫校では、18歳までを同じ学校で過ごすことになります。12~18歳は「思春期」真っ只中。身体も心も大人に近づく過程です。特に「心」の部分においては、少しずつ親離れをする時期。今まで疑わなかった親の価値観に対して疑問を感じることも出てきます。親はもちろん、学校や社会に対して多くの葛藤を経験しながら、自身の世界観、価値観を形成していく時期とも言えるでしょう。思春期のメンタルは朝令暮改のことが多々あります。文字通り、朝に言っていたことと夕方に言うことが全くもって変わっている。そんなことはざらです。
そのような激動の思春期に「目先のことに一喜一憂することなく、好きなことに没頭できる」のが、中高一貫校の魅力です。目先のことは、分かりやすく書くならば高校受験をしなくて良いということ。高校受験をしないのがなぜ良いのか?高校受験の実態をお伝えします。
①(2) 内申が重要!公立高校受験の実態
公立高校(都立高校、県立高校など)に合格するためには本番の試験だけ良い点数を取れば良いわけではありません(*1)。合否に関わるのは、内申点と本番の試験の点数の総合点。たとえば都立高校の最難関である日比谷高校は、全ての教科、体育や美術などの実技教科も含む全科目においてオール5に近い内申点をとらなければ合格できません。国語、数学、体育や美術、まんべんなくオール5なんて簡単なことではありませんね。日々の学校の授業もしっかりついていきながら、一方で本番の試験でも点数を取るために塾に通い、さらに部活も頑張りたい。成長期なので睡眠時間も確保したい・・・思春期、反抗期のお子さんと対峙しながら高校受験に向き合うのは親にとっても簡単ではありません。
(*1)過去には特別枠というものがあり、本番の試験の点数が極めて良ければ合格というものがありました。
①(3) 選択肢が減っている!?私立高校受験の実態
私立高校受験は公立高校とは異なり、一般入試においては内申点が必要ない学校が大半です。推薦枠受験の場合はやはり内申点が必要ですが、全教科が対象ではない学校も多く、理系に強いが文系は弱い、実技はだめだが座学は強いなど、得意教科に偏りがあっても選択肢が狭まることはありません。
しかし、本記事の主題でもある「中高一貫校」という言葉通り、中学と高校の6年間で包括的に教育を行う学校が主流になっており、高校からの入試枠が少ない、または無い学校も増えています。高校受験の落とし穴、そもそも受ける学校がない・・・都市部を中心に増えつつある現象です。詳しくは後述します。
「6年間、好きなことに没頭できる」点は勉強以外の活動についても当てはまります。中高一貫校では、小学校を卒業したばかりの12歳から大学など高等教育に進もうとする18歳までが共に過ごします。体育祭などの学校行事や部活動などを通じ、後輩たちを引っ張る18歳、高校三年生の姿を身近で見ることになります。中学一年生から見て、心身ともに成熟している高校三年生の存在はさぞや頼もしく見えるでしょう。このようなロールモデルが身近にあることは思春期において大きな存在になります。子どもにとっても、また親にとっても、6年後の成長した姿を垣間見れることは、想像以上に大きなメリットになります。(高校二年生以降は受験勉強体制で行事に関与しない学校もあります。)
【中高一貫校の魅力②】 学校の選択肢が多い・増えてきている
中高一貫校2つ目の魅力は「学校の選択肢が多い・増えてきている」点です。
首都圏においては、高校入試を取りやめ、中学入試のみの完全中高一貫校化する学校が増えてきています。2000年代からこの流れが出てきており、近年では、豊島区にある男子校の本郷高校は2021年入試から高校入試を廃止。同じく豊島区にある女子校、豊島岡女子高校が2022年入試から高校入試を取りやめました。
東京の御三家中(男子:開成・麻布・武蔵/女子:桜蔭・女子学院・雙葉)と呼ばれる学校のなかでは、開成しか高校入試を実施していません。同じく東京の新御三家中(男子:駒場東邦・海城・巣鴨/女子:豊島岡女子・鷗友学園・吉祥女子)と呼ばれる学校においても、高校入試を実施しているのは巣鴨のみ。神奈川県の御三家中(男子:聖光学院・栄光学園・浅野/女子:フェリス女学院・横浜雙葉・横浜共立)も、高校入試を行わない完全中高一貫校となっています。
公立である都立の中高一貫校においても同様の流れが起きています。高校に付属中学校を開設した併設型5校(富士・武蔵・両国・大泉・白鷗)が2021年入試から順次高校入試を取りやめ、完全中高一貫校に移行します。
この背景は、完全中高一貫校が増えてきた理由を考えれば簡単なこと。6年一貫教育と3年間のみの2つのカリキュラムを並走させるのが難しいのです。(教育ジャーナリストおおたとしまさ、2019年)。学校教育は、①就学前教育、②初等教育、③中等教育、④高等教育に分類され、中学校、高等学校での教育は③中等教育に当たりますが、学校という枠組みの中では、③中等教育が中学校と高等学校の2つに分断されてしまうのを避けているのです。(④高等教育は大学や専門学校)
ただでさえ、新しい学習指導要領において指導する内容が増えている現在。高校では2022年から、「歴史総合」「理数探究」「情報」などの新たな科目が設置されました。教員は教える内容が増え、子どもは学ぶ内容が増える「ふとり教育」とも揶揄される昨今ですが、6年一貫教育では「ゆとり」をもって、先生たちも子どもたちと向き合える良さがあります。
思春期の心の成長への影響を考慮。豊かな人格形成に向けた6年一貫教育
生徒の6割が東京大学に進学する名門、筑波大学附属駒場中・高等学校のホームページに、こんな情報があります。
図表1 生徒の人格形成と6年間の心の成長
思春期を迎える子ども達の心は、直線的には発達しません。紆余曲折を経ながら『自分くずし』や『自分づくり』を行い、成長していきます。例えば、親子関係では心理的な離乳期を迎え、「甘え・依存と自立の再構築」が行われ、友人関係では「仲間選び」とその過程を通じた「自己認識・自分の位置付け」が行われていきます。
これらの成長は仲間との共同作業や協力関係の中でこそ養われ、あるときは協力による感動や楽しさで心が活発に働き、また反対に仲間との軋轢により意欲が低下することもあります。さらに、外見上は静かに沈滞しているようであっても、次のステップに向けてじっと力を蓄えている時期もあります。
学業・学校行事・クラブ活動は、生徒の全面的な人格形成の場を提供するだけでなく、子ども達の精神を鍛える場と機会にもなっています。
出典:筑波大学附属駒場中・高等学校 学校紹介 生徒の人格形成と6年間の心の成長
https://www.komaba-s.tsukuba.ac.jp/about/mind-growth/
思春期の子どもたちは紆余曲折を経て成長していくことが提示されていますね。同学校に限らず中高一貫校の先生方は、内申点の獲得など目先のことを考えた高校受験を行うことで「自分くずし」「自分づくり」の期間をしっかりと確保できないと考えます。また、図表1における中学3年生から高校1年生にかけて連続的に行われるはずの「仲間探し」「仲間の確定」が分断されかねません。
思春期は、自分の将来がどうなるのか分からない五里霧中の状態で悩み、葛藤します。同じように悩み、葛藤している友だちは自分にとっての良き理解者でもあり、戦友とも言えるでしょう。入学時の「様子見」の時期から、卒業時の「大人化」される時期までを通じて友だちと過ごす日々は、竹馬の友以上の存在になり得ることでしょう。そのような中高一貫校での6年間は、人生においてかけがえのない大切な6年間になるのです。
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