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【イェール大学の成田悠輔先生セミナーより①】エリート校なんて意味がない?学校選びで大切にしたいたった1つのこと

Edu.tor主催、イェール大学の成田悠輔先生によるオンラインセミナー『イェール大学准教授成田氏が語る。エリート校、偏差値による学校選びの行く末は?~日米教育の比較から「子どもの教育、学校選択」の時に考えるべきこと。with Edu.torチューター』より、一部抜粋、Q&A形式で概要をお届けします。【成田先生セミナー記事②はこちら】【成田先生セミナー記事③はこちら

Q.エリート教育の効果というものは明確なのでしょうか?

A. 21世紀に入って20年以上経ちますが、エリート教育や学歴というものは、いろいろな形で社会や心の奥深くにいまだに巣くっているように思います。確かに、高偏差値の有名私立大学や国公立大学などを卒業した学歴の高い人と、そうではない人を比べると、「平均年収」が違うことが明らかになっています。

ほかにも、「失業していないか」とか「結婚しているか」「幸せな家庭を築いているか」など、分かりやすい幸福の指標をイメージしてもらっても、それを叶えているのは高学歴の人が多いのは確かです。しかし、それらがエリート教育、すなわち高学歴だからかというと、注意が必要なところだと思います。相関関係と因果関係はイコールではないからです。

 

Q.因果関係がない可能性があるということでしょうか?

A. はい。例をあげますと「東大に行くこと」と「将来の高収入」には相関関係がありますが、それは因果関係を表わしているかというと、そうとは限りません。例えば「地頭の良さ」といった第3の要因が「東大に行くこと」「将来の高収入」の両方に影響している可能性があるのです。そのため「東大」=「高収入で幸せ」というふうに見えているだけかもしれないということです。

また、相関関係があっても、因果関係でも何でもないという厄介な相関「偽物の相関」にも注意する必要があります。有名な事例として、「アメリカでプールで溺れた人数」と「ニコラス・ケイジの映画出演数」の相関というものがあります。ニコラス・ケイジが映画にたくさん出たから、ショックを受けてプールで溺れたわけではないですよね? これは因果関係のない、偽物の相関の例です。このように、「学歴と幸せ」についても、同じことがいえるかもしれないということです。本当に学歴を高めてエリート教育を受けたから、幸せになっているのでしょうか? という疑問が残るのです。

 

Q.エリート教育の効き目について、具体的な研究例がありますか?

A. 僕自身がアメリカのシカゴで行った研究を紹介します。特に入るのが難しいエリート公立高校10校と、ごく普通の高校を比べてみました。「将来に良い影響を与えているのか」「幸せになるために効き目があるのか」という調査です。例えば、キングというエリート高校で、ギリギリ合格した人たちと合格最低点が1、2点たりない人たちを比較したデータがあります。この2組の将来を比べて差があったら、エリート高校に入れたことが、その教育が、将来に影響を与えた可能性があると考えられます。たまたま運で1点に笑った組と1点に泣いた組……それ以外はほとんど同じような人たちですから。

結果から言いますと、「特に何の効き目もないらしい」ことが分かりました。2つの組を、日本のセンター試験のような高校卒業後に受けるテストの点で比べたのですが、むしろエリート校の生徒が少し点数が低いという結果だったんです。つまり、高校入学前に同じぐらいの偏差値だった人たちは、普通の高校で教育を受けるよりも、エリート高校で教育を受けるほうがマイナスの影響があるらしい、という結果になったんです。同じ偏差値帯だった生徒たちは、教育による影響がない、ということです。

もちろん全体としてはエリート校の生徒のほうが得点が高いんですが、要するに、そもそも試験の点数が高い学力の高い人がエリート校に行っているだけ、という残念な結論ということですね。他の街、ニューヨークやボストンでも同じ結果で、エリート高校の効き目は0だと分かりました。

それは大学でも同じことがいえます。ハーバードやイェールなどエリート私立大学と州立大学を比較した研究があるんですが、それによると、「将来の収入」への影響がほとんど0であると示されました。したがって僕の授業も、学生たちに効き目がないということだと思います(笑)。

 

Q.エリート教育に効果が見られないなら、大切なことは何でしょうか?

A. エリート教育は、一見、当然良いことに思え、もちろん「いい感じの生活をしているように見える」けれど、それは本当にエリート教育や学歴のおかげだろうか? ということです。単に本人に余裕があるだけの可能性があるわけですから。ですので教育を考える場合、見た目の「いい感じかどうか」と同じぐらい「効き目が発生するのか」に注目することが重要です。

ただ、効き目を測るのは難しいことが多いので、効き目がないかもしれないという覚悟が必要だと思います。そういう意味でいうと、効き目や表面上の看板にとらわれ過ぎず、例え完全に無駄であって未来に影響を与えないとしても、自分が本当に「納得できるのか」が大切だと考えます。それに基づいて教育を選ぶ、学校を選ぶのが、大事なのではないかと思います。

 

エリート教育や学歴、子どもの教育で何を重んじるのか、表面的なものではなく「自分が本当に納得できるか」で判断したいものですね。けれども、社会や心の奥底に根付いているとしたら、よほど意識しないと抜け出せないのかもしれません。成田先生のお話で目が覚めた方の多い、印象的なセミナーでした。(Edu.torセミナー担当者)

 

構成・文/小川のぞみEdu.tor編集部

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