「ドルトン東京学園」ってどんな学校? そんな声にお応えすべく、Edu.torスタッフが校長先生に聞いてきました。「ドルトンプランとはなにか」から「学校が考えるグローバル教育とは」「どんな生徒や先生がいるのか」まで、多くの内容に回答いただいたロングインタビューです。
―「ドルトン東京学園」で行われているドルトンプランとはどういったものでしょうか?
ドルトンプランとは、100年ほど前に米国の教育家ヘレン・パーカストが提唱した教育メソッドです。詰め込み型の教育に問題意識を持ち、学習者中心の教育を唱えました。
「自由」と「協働」の2つの原理に基づく「ハウス」「アサインメント」「ラボラトリー」を軸とし、一人ひとりの知的興味、旺盛な探究心の育成、個人の能力を最大限に引き出すことを大きな特徴としています。「ドルトン東京学園」も同じく、その2つの原理と3つの軸を中心に置いています。
―2つの原理は想像できる気がしますが、3つの軸である「ハウス」「アサインメント」「ラボラトリー」はどう実現されていますか?
まず「ハウス」とは、異学年の生徒で構成されるコミュニティで、全校を6つの「ハウス」に分けています。授業のクラスとは違った立場や役割で活動し、例えば、年3回の行事などは「ハウス」別に取り組んでいます。また、それぞれの「ハウス」は4つの「スモールハウス」に分かれていて、週1時間のハウス活動や掃除、ランチで交流したりしています。
現在、中等部の1、2年生は、学校のシステムに慣れるまで、学年単位の取り組みも並行して行っていますが 、3年生以降は「ハウス」が主体で学校生活を送ります。「ハウス」の教員(ハウスアドバイザー)は、自分のハウスにいる各学年4〜5人ずつくらいの生徒を受け持ち、例えば、大学への推薦書を作成するのも「ハウス」の教員であり、生徒とのコミュニケーションは密に取ります。「ハウス」で共同生活をし、人間性を豊かにしていくというイメージです。そして、授業やラボでは「ハウス」集団での学びから離れ、個別最適化された学びを採択していきます。
次に「アサインメント」ですが、これは生徒自身による学びの設計を指します。自分が学んでいることの意義や目的を知り、ゴールまでの道のりを見通し、自分に合った学習計画を立てていきます。いつまでにどのようにやるのかは定められた範囲内で生徒の自由ですが、内容や進め方期限は教員との約束となります。
要するに定期テストがない代わりに、小テストや課題がたくさん出るのが通常の学校とは違うところです。小テストは期間内ならやり直すことができ、それら全てに評価がつきます。上手く進められない生徒は、友達や教員の力を借りながらしっかり評価を取れるような仕組みも用意されています。
具体例を挙げますと、数学ですと基礎的な授業を受けた後に、デジタルを使って学習を進めます。生徒の自主性に任せての学習となります。もちろん、分からなかったら教員に聞きに行くことも可能です。クラウドに自分の学習履歴を蓄積できるような形を構築中で大学の総合型選抜の際にアピールできる資料にもなれば良いと考えています。
また、成果物を保護者の前で発表する三者面談が年に1回はあるので、「アサインメント」の約束を守れない場合でも、仕切り直しができる機会を用意しています。高等部に進むと、留学、企業との連携授業や共同研究も単位となり、本校は文科省の定める最低74単位で卒業することが可能です。
最後に「ラボラトリー」についてお話しします。授業での学びを深め、定着させる場所や時間の一つという位置づけです。外部と繋がって好きなことに没頭でき、いわば、リアルな社会の動きが教材となっていています。テーマは毎年60以上あり、学校内で行われるものもあります。
さらに、スキルの高い保護者が講師をする機会があったり、生徒自身がつくる授業があったりもします。まさに学びの主体は生徒なのです。教員は助言者として、答えではなく、学びの方法を教えていきます。昨年9月に完成した、教科や授業の型にとらわれないクリエイティブな学習空間がたくさんある「STEAM棟」も、積極的に使うことで主体的な学びが深まるよう工夫しています。
―「ドルトン東京学園」が考えるグローバル教育とは?
グローバルとは、外国のものを日本に取り入れる、または、世界に通用する人になる、というだけではないと考えています。日本のものを世界に知ってもらうという積極的な姿勢で、発信し、伝えていくことが大切です。
一言で表すなら、「恐れず進んでいく」ことだと思っています。場所に関わらず活躍できる人、グローバル市民とでもいうような人を育てたいと思っています。「国や会社へ所属することを一番に考えなくてもいい」「国の概念を取っ払ったインターネットの世界だってある」「その中でどう生きていくか?」ということなどを問いたいです。
英語もコミュニケーションツールとして外せないと思っているので、3グレードに分けて授業を行っています。英語ができる方が、情報の収集力も判断力も上がります。しかし、ただ単に英語を話すだけでなく、多様性を認め理解した上で、英語の文化で考えられるということに価値があるはずです。
―どんな先生方がいらっしゃいますか?
教科のプロといった感じの30代後半の教員が多く、「私はこれを生徒に提供できる」という自分のスキルや経験値を持っている教員ばかりです。また、教員は生徒とフランクに本音のコミュニケーションをとっています。例えば、ある生徒からの提案がきっかけで全生徒と全教師の対話の時間をとったことがあります。その生徒が1人の先生と話をし、主催はDSC(Dalton Student Council:生徒会)とすることにし、テーマを6つに設定し、それぞれ分科会的に話し合いをすることを決め、実現することができました。
このように生徒からの意見は積極的に取り入れていきます。私に直談判しにくる生徒もいますので、その意見を全教員に共有したこともあります。意見をどんどん言い合って変化していく学校ですので、生徒はもちろん、教員もやりがいを感じてくれていると思います。
―ドルトンプランで学ぶ子どもたちの様子を教えてください
そもそもドルトンプランは自由度が高いものですが、生徒たちは中学受験を経て入学してきます。そうすると、最初から型にはまらず自由に動ける子もたくさんいます。
しかし本校では、1から10まで指示をするわけではありません。「自分で考えるんだよ」と言われると、ほとんどの生徒は最初は戸惑ってしまっています。何も伝えないわけではないですが、ここから先は自分で考えるようにと促します。生徒たちは、このまま戸惑っているだけでは「らちがあかない」と考え始め、右往左往する時間がやってくるのです。
そういった中で、先生が少しずつ種をまくようにアドバイスをすると、子どもたちは自身で動き出します。教師からは「やってみてよかったね」「ここは直そうか」とブラッシュアップを提案していきます。その後さらに良くなっていったという体験を経て、本校での学び方が分かっていっている様子です。
受験というゴールのために、今どうするべきかを逆算で考える学校が多い中、本校は「今やりたいことがあるから、これをやっている」という考え方で、その積み重ねで未来を創っていける自律的な学習者となることを目指しています。
―最後に、帰国生の様子を教えてください
型にはまっていない学校ですので、帰国生は居心地がいいと言います。こちらも自分らしく学校にいてもらいたいという考えですので、校則は厳しくなく、ピアスやヘアカラーをしている生徒もいます。式典などの公式な場では標準服を正装としますが、普段の学校生活では私服と組み合わせたコーディネートができます。何が良いとか悪いとかはないのですが、ときに「もっとこうした方がいいんじゃない?」と声を掛けることはあっても、生徒は自身の考えを言いますし、教員と意見を交わして話し合っています。
また、帰国生の英語学習はアカデミッククラスでネイティブティーチャーが担当していますので、実力を発揮、伸長できると好評です。テキストには基づかずスピーキングとライティングが中心です。もっと英語をやりたい帰国生には、直接、個別指導を受ける。
英語科の教員は20人ほどで、約半分がネイティブです。いわゆる日本的な英語の授業はほとんどなく、ディベートやカードゲーム(人狼)をしたり、スポーツをしながら学ぶ時間もあります。
取材日/2022年3月16日
対談者/ドルトン東京学園:安居校長先生
編集後記(神戸)
安居先生と話が盛り上がり、3時間ほどお時間をいただきました。その節はありがとうございました。ドルトン東京学園ってどんな学校なの?と聞かれると、「10年先を行っている学校」と私は答えています。パソコンやタブレットを見せながらプレゼンし合う生徒たち、髪型や制服を規制するような細かい規定もない、海外のインターナショナルスクールに似ていると感想を漏らした人もいました。
ドルトン東京学園は、ドルトンプランに基づいた教育を行っています。ドルトンプランには「自由と協働」という二大原理があります。その原理に沿って、教育活動をしています。一見、規律がなく「自由」そうに見えますが、生徒たち自らが話し合いを重ね、先生たちにも説明をし、自治を行っています。自由に学ぶマインドやスキルを身に着け、探究活動が好きなだけできる「ラボ」では、民間企業や大学の研究室などとコラボして徹底的に探究ができる場があります。昨年9月にSTEAM棟が完成しました。美術室や最先端の理科室などが完備されました。
安居校長先生は「いつでもご来校ください」とよく言われます。受験生であってもなくても、来てくださいと話されます。常に外に開かれることで教員、そして生徒も成長できる。生徒も教員もそしてドルトンに携わる人すべてが気づきを得ることができる。
「常に社会に開かれている学校」「とことん生徒も教員も探究できる」
ドルトン東京学園は、歩みを止めず、常に進化し続けています。